ハワイの旗の歴史
ハワイは現在、アメリカ合衆国の50番目の州です。上の写真の左側がハワイ州旗で、ダニエル・K・イノウエ国際空港(旧ホノルル空港)や州庁舎、大型ホテルなどに掲げられているのを見たことがある方も多くいらっしゃると思います。日本でもハワイアンレストランやハワイ関連のお店では店頭に掲げられたりしています。
ところでハワイはアメリカの州なのに、なぜか英国のユニオンジャックが左上にデザインされているのが少し不思議ですよね。その理由やいきさつをはじめ、今回はハワイ州旗のお話をしたいと思います。
ユニオンジャック入りの旗は、英連邦に加盟するオーストラリアやニュージーランドは分かるけど、そうではないハワイでなぜ?……と疑問に思う方もいらっしゃるのではないかと思います。
そこで、ハワイ州の成り立ちについて振り返ってみましょう。その歴史はキャプテン・クック船長が初めてハワイ諸島に上陸した1700年代に遡ります。
ハワイがもともとは「ハワイ王国」という独立国だったことをご存知の方も多いかと思います。ハワイ王国には国旗という概念がありませんでした。
船団の一員で、クックの死後もハワイ諸島の探索に度々訪れた英国の探検家・ジョージ・バンクーバーは、のちの国王カメハメハ1世と親交を深め、国王ジョージ3世からの友好のしるしとして、英国のユニオンジャック国旗をプレゼントしました。
カメハメハは喜んで、この国旗を港や島の要所に掲げていたといいます。
その後カメハメハ王はハワイ諸島を統一、ハワイは中国やアメリカなど世界各国と貿易を始めます。
しかし1812年に米英戦争が起こると、当時ハワイに住んでいたアメリカ人たちは各所に掲げられた英国の旗に怒り、それに配慮してアメリカの星条旗を掲げると今度は英国人たちが怒り出すという事態に。
今後も両国とスムーズな国交を維持したいと考えたカメハメハ王は、顧問のような存在だった英国人たちに「ハワイ独自の旗を作りたい」と相談した結果、できあがったのがアメリカの星条旗のデザインに、星のかわりに英国のユニオンジャックを配置し、赤白のストライプにロシアの青を加えた旗だったそうです。(※色については諸説あり)
横縞は当初7本から9本でばらつきがあったという記録が残っていますが、その後、ハワイの8つの島(ハワイ島、オアフ島、カウアイ島、カホオラウェ島、ラナイ島、マウイ島、モロカイ島、ニイハウ島)を表す8本に決まり、1845年、カメハメハ3世の時代に、正式にハワイ王国の旗「Ka Hae Hawaiʻi」となりました。
その後のハワイ共和国からアメリカ準州の時代を経て、国旗はアメリカの星条旗に変わりましたが、いまもハワイ州の旗として使われています。
州旗にまつわるハワイアンの物語
ハワイ王国がアメリカの州となった背景には、当時の一部のアメリカ人による王族の幽閉など侵略的な行為があり、後にハワイはアメリカに併合されます。この出来事はハワイ先住民にとって今も「アメリカによる侵略」として、多くの人がその歴史を痛みの記憶として抱えています。1993年には当時のクリントン大統領がハワイ併合は許しがたい誤りであったと、合衆国を代表してハワイ先住民に公式謝罪を行っています。
ハワイ州旗は、アメリカの併合以前の主権と独立を思い出し、多くのハワイの人々にとって「ハワイの誇り」を表しています。現在でも、ハワイの先住民の権利や文化の復興を求める運動では、この旗が重要なシンボルとされています。
ハワイのもう一つの旗
ハワイにはもう一つ旗があります。「Kanaka Maoli」と呼ばれ、その旗は、ネイティブ・ハワイアンの旗と言われています。現在のハワイの旗「Ka Hae Hawaiʻi」よりずっと前から存在し、カメハメハ王族の旗であったとも伝えられています。
緑は庶民を表し、赤は酋長下の土地区分の頭を表し、黄色が王の象徴を表しているそうです。旗の中央には、ハワイアンの航海を象徴するパドル、ハワイ原住民を象徴する盾の紋章がデザインされています。
法的には一度も正式な国旗や州旗として制定されてはいませんが、現在の旗「Ka Hae Hawaiʻi」が誕生する前の1843年、英国海軍キャプテン、ロード・ジョージ・パウレッテからこの旗の使用禁止命令が出たという経緯があります。今でも、ネイティブハワイアンの人達の中では、この旗こそが本物だと主張している人も多く、家の外や車、集会で掲げたりする人も多く見られます。
また、古代の宗教儀式の場であるヘイアウ跡のリゾート開発や、ハワイ島にあるマウナケアの天文台建設反対運動などの報道で、ハワイ州旗を逆さにして掲げている写真を見たことがあるかもしれません。
旗を逆さに掲げるのは、船の転覆や災害など「非常事態」を外部に伝えるときに行われますが、彼らはハワイ州旗を逆さにすることで、ハワイ王国転覆の危機や悲しみを訴えているといわれます。
文化的アイデンティティの表現
ハワイはアメリカの中でも非常にユニークな文化を持つ州です。ポリネシアの伝統、言語、価値観が根付いており、それらを保ち続けたいという願いが強くあります。ハワイ州旗はハワイの文化と歴史を直接的に表しており、ハワイの人々が自分たちのアイデンティティを守るための象徴としています。
これはアメリカへの反発というよりも、自分たちのルールや誇りを守りたいという積極的な表現です。
そのため、ハワイの人々は州旗を特別なものとして大切にしているのです。